住民参加による機能美を追求した街路設計について、3回に分けて記載しています(3回目)。


「真の“お客様”とは誰か?」 以前ベストセラーになった、『建設崩壊』の章タイトルのひとつですが、つい最近まで、誰もがこの疑問すら持たないまま、公共事業に携わってきた感があります。

私たちは、発注者に対し様々なサービスを提供することにより、満足していただける成果をあげられると考えておりました。 しかし今、時代の変化に伴って真の“お客様”である「住民」の考えを掌握することが、私たちの大きな役割となり、発注者との協調関係の中で公共事業を進めることが求められるようになってきたのです。

定石や既存の手法をやめてみる

ワークショップの開催は、『作り手』である北海道帯広土木現業所大樹出張所の方々をはじめ、私たち建設コンサルタントの技術者に『やりがい』を与えてくれた気がします。打合せは、常にリラックスした雰囲気の中で『何か新しい試みを!』という意識が自然に働き、様々なアイデアが湧き上がったのです。それは、この街路の『使い手』となる住民の方々一人一人が思い浮かんだからだと思うのです。

また普段、土木技術に接する機会が少ない住民の方々の素朴な『なぜ?』 『どうして?』は、私たちが当たり前に思っていた定石と慣習を切り崩し、あらためて街路の整備を考え直すきっかけとなりました。この定石を組み立て直す作業の隙間に、様々なアイデアが生まれてきたような気がします。これが、この街路を計画・設計する『作り手』の姿勢でした。

自分のテリトリーを守らない

一方社内では、道路技術者による独立体制をとらず、都市計画や公園、CG、ワークショップ企画など様々な分野の技術者によるプロジェクトチームを編成しました。
ときに専門家の集まりは、各自が得意とする分野から勝手な主張を展開してしまう傾向があります。しかし、この業務を通じて社内では、建設的なディスカッションを重ね新しい視点と発想によって、互いの技術を身に付けようという意識も育まれたのです。

コンセプトは苦手…

私たち技術者は、数値に裏打ちされた事象や文書で記された法規・法令こそが、何よりも確実で安心できるのです。

反面、一般にコンセプトとして記されるような、背筋がゾクゾクする歯がゆい言葉は、照れ臭くて苦手というのが本音です。そのため、技術者の面々だけでコンセプトメイクをしていくと、各自が悶々と想いを巡らすのですが、言葉に発するのは確実で失敗することなく、必ず実現できることだけ。酒でも入らない限りバカになれない、盛り上がれないというのが、宿命なのでしょうか?(例外的な方もいらっしゃいますが…。)

でも、左記のように考えることで、コンセプトは業務全体の強力なベクトルになると私は思うのです。

《気恥ずかしくないコンセプトとは?》

様々な解釈があると思いますが、私がワークショップを通して感じたことです。こうやって考えれば、背筋がゾクゾクしないのでは?

コンセプトとは『共通の言語』によって、具体的なデザインや利用のイメージを計画・設計・施工に至るまで【作り手】と【使い手】が共有でき、【使い手】にとっての明確な価値が文章化されているものだと思います。

【作り手】とは
…発注者、施主、開発者、コンサルタントなど。

【使い手】とは
…国民、住民、お年寄り、若者、子供、身障者など。

【作り手】にとってのコンセプト
・使い手の利用イメージが体系づけられている。
・技術的な知恵や工夫の可能性が示されている。

【使い手】にとってのコンセプト
・生活を刷新してくれる期待が盛り込まれている。
・生活に密着した具体の利用場面が想像できる。

両者にとってのコンセプト
・特定の【作り手】の趣味・嗜好にとらわれない。
・明確な価値が体系的に整理され、共有できる。
・総論でなく地域の各論に立脚して合意されている。

※これは、私のメモをベースにリライトしたものです。何かの文献からの引用ですが、これは私の考えたものだ!とか、ここに同じことが掲載されているよ! という情報がありましたら掲示板にご一報ください。

どう咀嚼するか

コンセプトは、みんなではじめに作っておくものです。それは地域ごと路線ごとに明らかに異なるもので、業務全体を駆け足で見通してみることで明らかになるのです。しかし、計画段階で作られたコンセプトは、設計に移行した段階で忘れ去られてしまう傾向があります。そうならないためには、住民の皆さんがきちんと確認し続けることが重要だと思います。

寿ふれあい通の場合には、Vol.1にて紹介した「気持ちよく歩き、そして出会い、集い、語らい、憩うみち」という言葉が、設計段階に移行しても絶対に変わることがない、使い手と作り手の双方の「合言葉」のような位置を占めたのです。

一方、この言葉をどう咀嚼してどんな形に仕立てていくかは、これに関わるすべての技術者に委ねられているわけです。そのプレッシャーを常に正面から受け止めながら、したたかにアイデアを提案し、実現できるかが行政を含めた住民参加に関わる全ての技術者に求められるのではないでしょうか?

加えて今後は、コンセプトが苦手で生真面目な技術者を目覚めさせることが、地域で暮らす方々の役割だと思うのです。実際、当社には、私を含めて住民の方々に成長させていただいた職員が多いのです。

地域の信頼という「技」

12月から3回にわたって連載してきた「住民参加による機能美を追求した街路設計」ですが、良いことばかりを書き綴ってしまった感があります。

業務が中盤に入り上位・関係機関との綿密な調整を行う中で、どうしても住民の皆さんの要望に応えられないことがありました。もちろんこれは、ワークショップで見直さなければなりません。「これまでの取組みがムダになるので、住民の方々に叱られるのでは?」という不安の中、住民の方々にこれを受け入れていただけたのは、地域の一員として大樹出張所の職員の方々に信頼関係が築かれていたからです。

大樹出張所内で職員の方々は、どこの定食屋が旨いとか、買物するならどこが良い、といった他愛もない談笑で盛り上がっていたり、他方では町内会活動に積極的に参加している方もいます。

僅か2、3年のサイクルで転勤してしまう職員の方々が、大樹の風土とおおらかな人柄に慣れ親しみ、「自分も大樹町民なんだ!」という姿勢のようなものを、私は様々な場面で感じ取ることができました。 こんな些細なことが、小さなまちの大きなコミュニケーションとなって次第に住民と繋がっていき、地域のことを親身に考えられる意識が育まれているのではないでしょうか。

これだけは、到底私たちに果たせない、地域の信頼という「技」であると思うのです。また、同時にそうさせているのは、大樹町民の人柄なのかもしれません。

 

担当部署:地域開発部