これは、平成13年度の全国地質調査業協会連合会による技術フォーラムにおいて発表したものです。盛土荷重載荷工法とは、圧密沈下対策工のひとつであり、所定の高さの盛土を所定の期間放置するだけで効果が得られ、経済的にも最も有利な工法です。ここでは、この工法における載荷盛土高の算定手法について、特に道路施工の場合を対象にしてご説明したいと思います。
1.はじめに
盛土荷重載荷工法は、供用後の有害な圧密沈下の発生を防止するために、あらかじめ盛土(載荷盛土)の荷重によって軟弱地盤の圧密沈下を促進させる工法です。周辺地盤の引き込み沈下や盛土の放置期間等に問題がなければ、優先的に検討される基本的な工法と言えます。
この工法は、所定の高さの盛土を構築するだけという比較的簡単な施工方法で実施されます。しかし、施工する前には、①基礎地盤の限界盛土高、②載荷盛土の施工速度、③載荷盛土の高さ、④載荷盛土の放置期間等、詳細な検討が必要となります。これらをいい加減に設定すると、基礎地盤のすべり破壊を引き起こしたり、沈下対策として十分な効果が得られない場合があります。
今回は、道路新設における沈下対策として、当工法を採用した場合の載荷盛土の高さについて述べたいと思います。
2. 盛土荷重工法における載荷盛土の高さ
2.1 通常の盛土の場合
当工法における載荷盛土の高さは、現地盤の高さ(以下GH)を基準として、増加荷重以上となるように設定されます。新設道路における増加荷重は、通常、GH上における①盛土荷重、②舗装荷重、③交通荷重の和となります。載荷盛土は、所定の放置期間による圧密沈下が終了した後、GHよりも上に増加荷重分以上の盛土荷重が確保されている必要があります(図-1参照)。
載荷盛土の設定における難しい点は,盛土荷重と道路計画高の両方を考慮しなければならないことにあります。通常、載荷盛土は、放置期間終了後にそのまま道路盛土として利用されます。したがって、より細かく言えば、圧密沈下の終了後、舗装(路盤)下端部の計画高(道路計画高―舗装厚)より上に、舗装および交通荷重分以上の盛土が残ってなければいけないことになります。不足している場合、想定した計画荷重に相当する載荷ができていないことになります。
図-1 載荷盛土荷重概略図
図-1における必要施工厚は、盛土荷重による沈下量を考慮して設定されます。この施工厚は、通常、荷重を変化させた多数の沈下計算によって作成した「荷重-沈下量-盛土高関係図」から求めます(図-2参照)。
図-2 荷重-沈下量-盛土高関係図
図-2における縦軸は、左が荷重、右が盛土高(施工厚)で、盛土の単位体積重量から左右とも等価となるように設定します。荷重-沈下曲線Htは、盛土荷重と沈下量の関係を表した曲線です。また盛土高-沈下曲線Hbは、曲線Htから各荷重における沈下量を差し引いた曲線で、最終的な盛土高を表しています。
図-2におけるbは確保すべき必要盛土高(増加荷重)であり、圧密沈下後にこの高さにするにはaの施工厚(盛土荷重)が必要となります。
2.2 低盛土の場合
路盤等が基礎地盤中に構築されるような低盛土道路では、基礎地盤と載荷盛土の単位体積重量の差によって載荷盛土高が異なります。
通常の高盛土道路では、計画荷重すべてが基礎地盤に及ぼす増加荷重となります。しかし、路体が基礎地盤内に構築される低盛土道路の場合、増加荷重は掘削される土の荷重を差し引いた値となります。掘削される土は、実際、載荷盛土による沈下の進行に伴い、現地盤から盛土材に置き換わります(図-3参照)。したがって、増加荷重の算定には、この掘削される土の置換状況を考慮する必要があります。
図-3 掘削土の変化
(1)増加荷重
計画道路における増加荷重は、①式のようになります。また、掘削される土の荷重は、圧密沈下量を変数として②式のようになります(図-4参照)。
①式および②式から、増加荷重は以下のように表せます。
図-4 荷重モデル図
(2)載荷盛土高
載荷盛土は、高盛土の場合と同様に、所定の放置期間による圧密沈下が終了した後、GHよりも上に増加荷重分以上の盛土荷重が確保されている必要があります。しかし低盛土の場合、増加荷重は沈下量によって③式のように変化し、それに合わせて必要盛土高Hbも変わります。
必要盛土高Hbと、その高さを確保するための必要施工厚Htは、図-2の中に③式による増加荷重の変化を表現した図-5「荷重-沈下量-盛土高関係図」から求めることができます。
図-5 荷重-沈下量-盛土高関係図
図-5における荷重-沈下曲線Htおよび盛土高-沈下曲線Hbは、図-2と同様に荷重・盛土高と沈下量の関係を表した曲線です。また、増加荷重変化線は③式による直線であり、沈下量とともに増加荷重が変化することを表しています。この図では、現地盤よりも載荷盛土の単位体積重量が大きい(γB-γt>0)と想定して右下がりの直線になっています。つまり、盛土材が砂質土、現地盤が泥炭あるいはシルトといった場合を想定しています。
増加荷重変化線と盛土高-沈下曲線Hbの交点が必要盛土高dとなり、cが必要施工厚となります。増加荷重の変化を考慮しない場合、必要盛土高はb、必要施工厚はaとなり、明らかに異なった値となります。
3.おわりに
盛土荷重載荷工法における盛土高の設定について、関係図や数式を用いてご説明しました。最後に、関係図等の利用にあたっての注意点を述べたいと思います。
まず、圧密沈下の計算における算定値の精度が低いという問題があります。要するに、盛土高の設定に用いる「荷重-沈下量-盛土高関係図」における沈下曲線の精度にも問題があるということです。これを解決するには、沈下算定式の見直しや、沈下計算時に用いる地盤の物性値(単位重量等)をより正確に求める必要があります。
低盛土道路の場合、盛土荷重載荷工法は強制置換工法の側面も有しています。圧密沈下によって、現地盤の表層部分が盛土材に置き換わるという点です。結果として、現地盤より盛土材の単位重量が大きければ、明らかに載荷盛土の高さを低く設定することができます。
一般に、基礎地盤が軟弱な場合、限界盛土高が低いため十分な高さの載荷盛土を施工できないことがよくあります。沈下による増加荷重の減少を考慮せず、安易に高価な他工法を採用していないでしょうか。
圧密沈下量を正確に予測することは難しいのだから、机上の理論による増加荷重の減少は考慮せずに、載荷盛土高を設定するのが妥当ではないかという考えをお持ちの方もいらっしゃると思います。しかし、それでは載荷盛土高に対してどれだけの安全率を見込んだのか把握できません。
低盛土道路に関しては、交通荷重の影響が大きいため、設計上どの程度、交通荷重を考慮するかという問題があります。この問題や沈下量予測の難しさ等いろいろと検討して、図-5から求めた載荷盛土高に余裕高(安全率分)を設定するという方法が良いのではないでしょうか。
共同執筆:坂井 敦行、宿田 浩司