(1)はじめに

平成10年11月に『「柔構造樋門設計の手引き」(財)国土開発技術センター編』が発行され、それ以降の樋門構造物はすべてこの手引きに従い設計することとなりました。
当樋門は平成11年に設計をおこない、施工は12年、今年(平成14年)会計検査対象となり無事受験完了となりましたので、ここに紹介させていただきます。

(2)柔構造ってなに?

樋門とは、堤内から堤外への排水や農業用水の取水を目的とした、堤防を横断する暗渠形式の構造物です。
従来、軟弱地盤上に樋門を設ける場合の多くが杭基礎となっているため、函体周辺に空洞が発生し、水みちができパイピング現象が起きやすくなります。その結果、樋門周辺の堤防にクラック等の変状が生じ、堤防の安定性を損ないます。

このようなことの防止するために、函体自体が右図のように、周りの堤防の沈下と一緒に沈下できる柔らかい構造としたものを『柔構造』といいます。

(3)当地点の土質状況と沈下対策

当地点では、函底部より沖積世の緩い砂、および軟弱な粘土、シルト層が分布しており、その下位には洪積世の比較的硬い粘土、砂礫層が確認されました。
また、沈下現象としては、長期にわたり進行する圧密沈下と、短期間で完了する即時沈下の内、当地区では盛土による増加荷重が発生しないため、埋め戻しにより発生する即時沈下のみを対象としました。(対象層厚は16m)

計算の結果盛土中心部では17cm程度、両端部では7cm程度の沈下が生じることとなりましたので、沈下対策として函体施工時にあらかじめ沈下量分を上げ越し設置するため沈下量と同程度の『キャンバー盛土』をおこなっています。 )

(4)施工状況

施工時の写真を入手しましたので、紹介します。

写真-1
可とう継手と可とう矢板です。可とう矢板の出っ張りは打ち込み用なので後でカットします。

写真-2
鋼製のしゃ水壁です。この部分は外の部分と違い可とう矢板は使用していません。可とうゴムが可とう矢板の代わりをしています。

写真-3
沈下板です。四角い太いものが函体の沈下を計測するのに用い、細い丸い方は地盤の沈下量を計測するのに用います。

写真-4
ほとんど完成です。

(5)おわりに

柔構造樋門設計は設計者の判断に委ねられる部分が多く、設計法も確立されたとは言い難い状況であるため設計者には悩みの多い分野です。設計時に想定した沈下量が出ない、または、沈下しすぎた・・・等の現場も多々あるようです。
これらを少しでも解消し、今後出来るだけ設計法としての完成度を高めるためにも事後調査(動態観測)をおこない、その結果の調査研究が大切な課題の一つであると考えています。

文責:児玉敬二